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北颪彪 - 制作裏話&考察【NARCIST COMPLEX】

はじめに

novelgame.jp
この記事は、『NARCIST COMPLEX』に登場する攻略対象キャラクターである『北颪彪』に関する制作裏話と、制作者自身による考察です。
『NARCIST COMPLEX』全体に関する大きなネタバレが含まれているため、全てのルートをプレイし終えた後に閲覧することを強くお勧めします。
また、少しメタな話題も含まれていますので、それを了解いただければ幸いです。

なお、ストーリーの中で描かれた出来事だけが事実です。
私が「〜かもしれない」といった考察を述べていても、それは単に「制作者が勝手に言ってるだけ」くらいの気持ちで読んでいただければ嬉しいです。
プレイヤーと制作者との間で解釈が異なる場合、それは制作者の解釈が正しいわけではなく、お互いに独自の解釈が存在するものだと私は考えています。


※ ネタバレを含むため、以下の内容は折りたたみ表示になっています。

クリックで展開

前置き

『NARCIST COMPLEX』というゲームは、「攻略対象全員ナルシスト」というやや冗談めいた煽り文句ではありますが、実際にはギャグ要素は少なく、むしろずっしりとしたストーリーが展開されるヒューマンドラマ系のゲームです。
一般的に「ナルシスト」という言葉は、ネガティブな意味や笑いの要素として使われることが多いように感じています。
そのため、現実世界において「ナルシスト」という言葉には、ややマイナスのイメージを抱いている人が多いのではないでしょうか。
このような背景を踏まえ、私は「ナルシスト」の概念を多角的に捉え、各キャラクターに適用し、『NARCIST COMPLEX』というゲームを制作しました。

『NARCIST COMPLEX』の世界は、みんな違って、みんな良い。
作中のセリフにもあるように、

「みんなが堂々と、自分の良いところを語れる。自分に自信があって、前向き。そんなことが当たり前のような世界の、夢」


そんな世界を夢見る物語です。
ですので、プレイ後に「こういうタイプのナルシストもあって良いよなぁ」と感じていただけたなら、私は嬉しいです。

そんな『NARCIST COMPLEX』という舞台で生まれた一人が、北颪彪。
彼は、特に「ナルシスト」のネガティブな側面に焦点を当てたキャラクターとして生まれたのでした。

本題

北颪彪とは

概要

難関大学と知られる「東堅大学」の経済学部経済学科二年生。
ノリは軽く、距離感は近く、お調子者の性格。一方で、学業においては優れた才能を持ち、東堅大学の中でも特に卓越した成績を誇っている。主人公に構ってもらえるのが好きなのか、「えらいでしょ?」とすぐに聞いてくる。
自信満々ですぐに人をからかうような言動をとることから、ナルシスト気質だけど接しやすい人……?
かと思いきや、『絵』に関しては非常に高い自尊心を抱いている。
褒め言葉に対しても「どうせお世辞だ」と一蹴し、一方で自分の絵が評価されない現実を受け入れることが難しい、非常に不安定な精神の持ち主。
このルートでは、北颪彪と主人公である志貴しずくが時折ぶつかりながらも前に進んでいくストーリーが描かれている。

プロフィール(作中未公開情報含む)

  • 名前: 北颪 彪 (キタオロシ ヒョウ)
  • 所属: 東堅大学 2年生・経済学部 - 経済学科
  • 年齢: 19 → 20
  • 血液型: A型
  • 兄弟: 兄が二人。やや歳が離れており疎遠気味だが、仲は良い。
  • 好きなタイプ: 笑顔がかわいい子、褒めてくれる子
  • 趣味: 絵を描くこと
  • 得意なこと: 頭脳系パズル
  • 苦手なこと: 人の自慢話を聞くこと
  • 好きな食べ物: 手羽
  • 誕生日: 1月2日
  • アルバイト: 個人経営塾の手伝い。高い収入を得るため、たくさん仕事をくれて中抜きもない個人経営塾で働いている。授業ではなく、自習中の子供の相談に乗る係。主に中学生に勉強を教えており、生徒から非常に人気。

キャラクター性について

テーマは「ナルシシスト

『NARCIST COMPLEX』における「ナルシスト」は、通常の「ナルシシスト」とは異なり、単に「自己信頼がある人、自分自身を好きな人」という幅広い意味で捉えられている。
……が、彪については、通常の「ナルシシスト」の本来の意味に近く、特に「自分は優れているはずだ」という自負心が非常に強い人物となっている。
実際、彪は何事もそれなりにこなせる非常に優れた人物だ。
しかし、客観的な評価と自己評価がかけ離れているため、思うように事が進まずに悩んでいる。本人もそのことをなんとなく自覚しており、他人からの褒め言葉を素直に受け取れないでいる。
他人の言葉の裏を探り、決めつけ、自らの心を守るために他人を遠ざけようとする。この人格の根本原因は、彼の子供時代の家庭環境にある。厳格な教育方針のもとで成長し、兄弟と比較され続けた彪は、自身の心を上手く満たすことができず、心を閉ざすようになる。
時に他人を見下したり、自分に干渉的な人に攻撃的な態度を取ることで、自身の心を守ろうとする。



プレイヤーにとって共感しやすいキャラクター

他の攻略対象キャラクターの三人が現実であまり見かけないタイプの人物であるのに対し、彪は比較的に現実味のある人物像である。プレイヤーの中には、身の回りに彼のような人物がいるかもしれない。あるいは、自分自身が彼に共感することもあるかもしれない。
当ルートでは、彪の抱えている問題が一発でバシッと解決するわけではない。時間をかけてぶつかり合い、時には周りに助けを求め、話を聞きながら、悩んで、少しずつ答えを見つけていく。ゲーム中ではわずか数ヶ月間の出来事だけど、彼は自分の人生の何年もの月日をかけて悩み、そして主人公に「ありがとう」と伝える日にたどり着いたのだろう。
こうした彼の姿を見届けることで、彪に共感していたプレイヤーが、少しでも前向きな気持ちになれることを私は願っている。

多くの人と助け合い、慕われる人柄

彪は、他の攻略対象キャラクターのルートでも結構な頻度で登場する(正確に数えてはいないけど、おそらく最も頻繁に登場するキャラだろう)。
相手のことを真剣に考え、共感し、笑ったり泣いたり怒ったりできる人物だ。だからこそ周りの人たちに愛されていて、彼のルートでも多くの人が登場し、彪のことについて色々なことを話してくれる。
彪はストーリー中で、それなりに”わるいこと”を度々やってしまう。ただ、こうした失態をしても、彪は自分の行動に反省するし、周囲の人々も彼と向き合ってくれるだろうと思う。それができるのは、彼の素晴らしい人柄ゆえだ。
彪の性格は、彼の他人を呼ぶ際のあだ名にも表れている。夜巳涼人の「スズさん」、緑島遥の「ミドリ」、日落晃の「アッキー」呼びは、すべて彪が最初に生み出したものだ。彼の名付けたあだ名は他の人たちにも広まりやすいようだ。
(彪は最初、緑島のことを「ミドリシマ」と呼んでいたが、長くて面倒臭いという理由で「ミドリ」と呼ぶようになった。緑島本人は、そのあだ名を彪なりの親愛の証として受け取っている。)

唯一、共通ルートで主人公に好意を抱く人物

他の攻略対象キャラクターがルート確定後に少しずつしずくに好意を抱くのに対し、彪だけは共通ルートの時点でしずくを意識し始めている。
しかし、彪は「自分が望んだことに限っては何かと上手くいかない」という思い込みがあり、そのため、しずくに好意を抱きながらも「多分無理なんだろうな」と諦めている。しずくと結ばれなかった世界線の彪は、今後も恋愛に関して相当苦労するのだろうなと思う。
(と言っても、あの四人の中で恋愛に関してそれなりに器用に立ち回れるのは晃だけな気もするが……。)
他のキャラクターのルートでも、彪の好意が垣間見える。夜巳のルートでは夜巳に敵対し、晃のルートでは少し悔しさを見せている。緑島のルートでは潔く身を引いており、緑島への義理と人情が見える。

彼の心を満たすには

少しだけ、裏話。
彪のストーリーを執筆する際に、彼の人間性や抱える問題については比較的早い段階で決めることができた。
しかし、「彼の心をどう満たすか」という点は一筋縄ではいかず、苦労することになった。

例えば、彪の画力が成長し、最終的に受賞するストーリーにして、「昔は受賞できなかったけど、今は受賞できたんだ、おめでとう」という結末にすれば、読者にとっては理解しやすいストーリーになると思う。
ただ、これでは、彪が以前評価されなかった理由が単に実力不足だということになり、彪が評価されるのも単に実力が向上したからだということになってしまう。これが少年漫画であれば努力・友情・勝利に相応しく実に良いストーリーになりそうだ。私もそういうストーリーは大好きだ。
しかし、このゲームのテーマは『ナルシスト』だ。
このゲームにとって大事なのは、彼がナルシストであること、コンプレックスを抱えていること、そしてその心にどう向き合うか、である。
絵で大賞を受賞したとして、本当に彼の心は満たされるのだろうか? しずくのいない世界で、最も尊敬される画家になったとして、彼はもう思い残すことがないのか。
なぜ彼の心が満たされていないのかを考え、そして満たす必要がある。そして願わくば、同じような悩みを持つ人の心に届くストーリーになってほしい。
こうして考えた末に生まれたのが、しずくが彪に想いを伝え、それを彪が受け入れるまでを描いたストーリーだ。彪の絵が上手いのか上手くないのかではなく、彼の絵が誰かに受け入れられ、そしてその喜びに彪が気づくまでのストーリーに仕上げた。
そのため、彪の絵が結局のところ上手いのかどうかは重要ではない。だからプレイヤーにとって、彪の絵の実力はピンとこないものとなっている。芸大には落ち、コンテストは落選し、しずくは「素敵」と言い、礼豪は才能を見出す。そりゃあ、彪も混乱するだろう。
彪は礼豪に画家としての道を示されて、本当に大事なことに気づく。彪にとって大事なのは「しずくちゃんが好きと言ってくれた」という事実だけだ。
その事実に気づいて、しずくの言葉を受け入れて、しずくに想いを伝えて。こうして、彼の心は初めて満たされるのだろう。
この結末こそ、『NARCIST COMPLEX』というタイトルにふさわしいと私は思う。

ビジュアルデザインについて

デザインテーマは「冬」「早朝」、テーマカラーは「黄色」。
幼い印象で愛嬌があり、イタズラっぽい性格もなんとなーく許せてしまうような雰囲気を意識してデザインした。主人公から見て年上という、ちょっとしたギャップもある。年上で頼もしいのに威厳がない。それが、北颪彪だ。
彪は何かと『夜巳涼人』と正反対のデザインになっている(色、身長、雰囲気やテーマ)。『夜巳涼人』が平成の乙女ゲーム的な容姿を目指していることに対して、彪は特にSNSVTuberで見かけるような令和の流行の容姿になっている(インナーカラー、目元の強い橙など)。
夜巳や緑島と違って、容姿が優れているという設定はないが、プレイヤーにとって馴染みやすく一目見て「なんか好きになるかもしれない」ような容姿になっている。
四人の中で最も背が低い。しずくや蜜柑と同じくらいの身長だが、蜜柑はヒールを履いているので、並ぶと蜜柑よりも彪の方が背が低く見える。

各ENDについて

END. A ありがとうをキミに

彪が「ありがとう」と口にするシーンは、このENDの中でしか存在しない。
相手の言葉をどう受け取るべきか分からない。そういう場面は、現実でも多くの人が経験するのではないか。それは照れ臭い気持ちだったり、反抗心であったり、ちょっとした自尊心だったり、さまざまな感情が絡むもの。そうした人が、相手の言葉と向き合うための言葉、それが「ありがとう」なのだと思う。
彪にとって『相手の言葉』というものは軽く流せるようなものではなく、そのわずかな意図や気持ちさえも敏感に感じ取ってしまいがちだ。相手の気持ちに非常に敏感であることは、彪の良いところでもあり、彼が苦しむ原因でもある。そんな彼が、相手の言葉に向き合う力を手に入れたことで、彼のこれからの人生がより明るく豊かになることを願っている。
Afterストーリーの中で、彪は父親に連れられて蒸気機関車の美術展覧会に行ったときのことを思い出す。彼の父親もまた芸術を愛する人の一人で、彪はただ、自分の父親を喜ばせてみたかったのだ。そうした自分の気持ちを思い出し、受け入れることで、彼は自分の気持ちとも折り合いをつけられたのではと思う。彼の、父親に対する感情には多少の憎悪があるだろうけれど、そうした感情も受け入れて、また一歩、前に進んでいけるだろう。
振り返ってみると、END.Aを迎えたところで、彪の周りの環境に大きな変化はない。絵で成果をあげたわけでもなく、父親との仲が改善したわけでもなく。志貴しずくという彼女ができたということ以外(これはめちゃくちゃデカい変化だけども)、何も変わっていない。それでも、彼にとって見える世界は今までとは見違えるものになっているはずだ。

END. B 届け

悲しくもあり、前向きで明るくもある。これもまた一つの結末だなぁと思う、END。
ストーリーとしてはそれなりに綺麗だけど、これは、当事者だとあまりにも辛いだろうなぁと思う。そんな、複雑な気持ちになるENDだ。
元々、END.Bは「ユメコウジ」というタイトルになる予定だった。夢までの道という意味の夢小路、夢を燻らせて膨らませていったという意味の夢麹、その夢の形を何度も変えようとしたという意味の夢工事。そうした数々の意味を重ねたものが、ユメコウジという言葉だ。
……が、ストーリーを仕上げる段階でタイトルを変更することになった。より相応しいタイトルを見つけたからだ。
彼が絵を描き続けるのは、父親を見返すため、世界に認めさせるため……でもあるはずだが。しずくと別れ、人生を賭けて絵と向き合う中で、少しずつ、少しずつ、しずくに自分の気持ちを届けたいという気持ちが具象化したのではと思う。
そして、しずくもまた、彼に自分の気持ちが届いて欲しいと願い続けていた。二人はとっくに両想いで、それをお互いにどこか理解しながらも、あと一歩の気持ちが届かなかった。手が届く距離にいながら、手を伸ばさず、別れる選択をしたのがEND.Bだ。
そうした二人の心を最も映している言葉。それが「届け」ではないか、と。
あまりに直球なタイトルだけれど、一番相応しいタイトルになったと感じている。
彪のキャラクターデザインテーマは「黄色」や「冬」であることに対し、このENDのテーマは「青色」や「夏」になっている。彪にとって正反対のそれらは、彪にとっては苦い思い出でもある『夜巳涼人』のキャラクターデザインテーマである。最後に登場する絵は、そんな彪が見ていた『夜巳涼人』という人物像と、それを取り巻く世界、そして素直に口にできない数々の言葉を吐き出すように描いている。
END.Bのあと、彪としずくがどのような人生を歩むのか。それはストーリーで描かれていないことなので、プレイヤーの解釈に委ねられる。


END. C 狂依存

ほんの少しずつ間違えていって、望んでいないはずの結末を迎えた。それが、このENDだ。
END.AとEND.Cは、そう大きく違うわけではない。ただ少し、選択が違っただけだ。だからこそ、END.Cはちょっと現実的で恐ろしいストーリーになっているのだと思う。
彪のEND.Cは他のEND.Cに比べてやや明るめの雰囲気で幕を閉じる。が、このENDにおいて彪は犯罪級のことをしでかしており、それでもなお彼を愛し続けるしずくの様子は、誰もが美談として受け入れられるものでもないだろう。現実でこんな話を聞いたら「いややめとけって」って言ってしまいそう。フィクションだから多少美化して解釈してもいい……とはいえ、END.Bのような「これもまた一つの選択だ」と前向きに捉えていいようなものだとは思えなかったので、その歪さを揶揄して「”狂”依存」というタイトルにした。
この世界線の彪であっても、END.Aの結末を迎えられたはずなのになぁ……。でも現実ってやつも、割とそんなもんなのだろう。
このENDの中で個人的に印象深いのは、夜巳涼人の行動だ。
彼は人を励ますことや褒めることの意味を長年考え続けてきた人物だ。だからこそ、彪の言いなりになっているしずくを見て、このままじゃ不幸になるということにいち早く気づけたのだろう。
夜巳は彼自身のルートで語られるように、「他人は他人」というやや諦めにも近いような価値観を持っており、他人に自分の考えを押し付けるようなことはしてはいけないと考えている。が、それでもこのENDで彪に対して怒りを示したのは、「他人は他人」という理性的な価値観より、「幸せになってほしい」と願う感情が勝ったがゆえのものだと思う。
こうした夜巳の一面は、彼自身のルートでは逆に見えてこないものだ。

他のキャラクターから見た「北颪彪」

夜巳涼人から見た「北颪彪」

夜巳自身は、みんなのことが好きな人物。みんな素晴らしい、みんな良い、みんなにもっと自分自身の良いところを知って欲しい! そんな肯定感の塊みたいな人物だが、彪に対して抱いている感情だけは、もっと特別な「憧れ」だった。
夜巳はなんでも器用ってわけではなく、自分を見つめ直して努力で物事を乗り越えてきた努力家だ。反対に、彪は自分を見つめ直すようなことはしていないものの、それなりになんでもこなせる天才肌だ。
また、夜巳は共感力が極めて低く、本人もそのことについて悩み、改善しようと努めている最中である。一方で、彪は共感力が(歪んでいるとはいえ)それなりに高く、相手の感情の機微を感じ取る察しの良さを持ち合わせている。
彪は夜巳にはない強みを多く持っており、夜巳は彪の器用さを素直に尊敬していたことだろう。
しかし、彪にとって夜巳は、歪で眩しい存在に見えていた。『夜巳が彪のことを特別尊敬している』なんて、彪は知りもしない。彪は自分が夜巳より優れている点があるはずだと自己評価しつつも、『でも評価されるのは夜巳涼人だ』と感じ、苛立ち、自己嫌悪に陥っている。
夜巳と彪の共通点は多い。特に、自信家であることや、他人との関わりが好きなことは大きな共通点だ。しかし、夜巳は幼い頃から家族に褒められ満たされながら育ったことに対し、彪は満たされないまま育っており、そうした違いが現在の人格の違いとなって表れている。
相性が良いとは言えない二人だが、それでもルームメイトとして上手く付き合い続けられている。それは、夜巳に『北颪彪をもっと知りたい』という感情や根気強さがあり、彪もまた『夜巳涼人に負けたくない』という意地や理性があるからだろう。今はまだ、お互いに本音を打ち明けるだけの仲ではないが、ほんの少しずつお互いを理解し、歩み寄るのだろう。少なくとも夜巳はそれを願っているし、お互いに、それを実現するだけの能力を持っているのだと思う。

緑島遥から見た「北颪彪」

お互いに「親友」と断言してしまうほどの仲だが、かと言って、行動を共にしているかというとそうでもない。一緒に出かけたり食事をするシーンもほとんどない。むしろお互いに今何をやっているのかなんて全然気にしておらず、何かあったときに声をかけられるならそれで充分という間柄。作中で同じく「親友」と断言しているしずくと蜜柑の仲とはまるで違うものだ。
それでも「親友」と断言してしまえるのは、お互いがお互いにとって「嫌なこと」を絶対にしないと信頼しているからである。何をしてくれるか、ではなく、何をしないでいてくれるか。それがこの二人にとっては何より重要なのだろう。
そうした距離感の二人であるため、緑島は彪のことをよく知っているわけではない。深く干渉せず、何か困ったことがあれば相談してくれるであろうと信じて待っている。性格や言動はまるで違うが、非常にバランスの取れた二人である。
緑島にとって彪は何より恩人だ。緑島の人生において最もショックな出来事があったとき、一番最初に駆けつけてきたのが彪だった。頭がどうにかなりそうなほどの精神的苦痛の中、隣にいた彪が緑島に深入りするでもなく、それでいて黙って受け入れて待っていてくれた。そして、彪は「これくらいなんてことない」と言い切った。そうした彪の行動が、どれだけ緑島の心を救っただろう。
緑島が彪に対して深く干渉しようとしないのは、こうして彪が深く干渉してくれないでいたことへの恩返しなのかもしれない。

日落晃から見た「北颪彪」

晃は『良い子』なので人のことを本気で悪く言ったりしないが、初めて彪に会ったときにはそれなりに警戒していた様子である。後に晃が彪のことを「ヤバい人」と言ってしまうほどのインパクトがあり、晃にとっては不安や不満があったことだろう。彪が志貴ハウスにやってくるまでは、人として尊敬できる夜巳や、優しくて物静かな緑島といった平穏無事そのもののようなメンバーであったのに、いきなり彪のような騒がしい年上が来てしまったのだから、不安になるのも仕方ない。
幸いだったのは、晃が『良い子』だったことだ。晃は彪に対する不信感を隠して接していたため、彪が晃の態度に嫌患感を抱くこともなかった。『話してみれば悪い人でもないのかもしれない』と思えるまで関係を築けたのは、晃の努力の賜物だ。
晃にとって彪は、勉強を教えてくれる先輩というだけではない。「人にものを教わるんだから自分をよく見せようとすんな」と、誰にも言われたことがないような要求をしてきた存在だ。晃にとってはとても戸惑う要求だが、それから少しずつ、晃は彪の前で”素”のような言動を見せられるようになっていった。
出会いこそ不安だったものの、お互いの歯車が少しずつ噛み合っていって、歳の近い友達同士のように気の許せる仲へと発展したのではないかと思う。
ただ、二人とも基本的に頭の回転が早く、やや甘えたがり気質なところがあるので、実はしずくの見ていないところでちょっとした戦いが発生していたら面白いだろうなぁと思ったり思わなかったり。

最後に

気難しいところ、不安定なところ、歪なところ。感情豊かで、友達想いなところ。その全てをひっくるめて、北颪彪という人物です。良いところも、悪いところも、それら全てが彼の魅力です。
そんな彼を受け入れ、彼のルートをプレイしていただいた皆様へ、心より感謝申し上げます。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
感想等はマシュマロまでいただけると、とても励みになります。北颪彪に関する質問につきましても、マシュマロにいただければ、この記事に加筆する形でお答えできると思います。

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